出会い

ロシア軍の蛮行が続いています。
ウクライナとロシアの人々の安寧を祈り続けます。
さて、長い間忘れていたのに、このブログを書き始めてから、時折フッ、フッとまるで昨日の事のように鮮明に思い出す顔や会話があります。
その中には既に他界された方もおられるのに、記憶が甦ると、やはりまだ生きている、とリアルに感じて、その人との出会いの意味を突然、発見してしまって、改めて出会いの深淵さに、感慨を新たにしているところです。
そして、最近つくづく思うのは、出会いはその時限りで終わってしまうものではなくて、その後の人生と共にあって、意味をどんどん深めていくものだという事です。

デビューして間もない頃、名古屋の、確か地下街にあったサテライトスタジオで、テレサテンさんとラジオの生放送で初めてご一緒しました。
本当に狭い控室で出番を待つ間、お互いに新人で初対面でしたので、挨拶したきり黙って待っていたところ、何かの拍子に彼女が困った顔で一言二言口を開いた時、この子は日本語がダメだ、と思ったので、私は咄嗟に英語で対応しました。
そしたら彼女はパッと表情が変わり、堰を切ったように話してきました。
やはり一人でとても不安だったのでしょう、話し終えた時は別人のような笑顔になっていました。
その日は仕事の後、非常に打ち解けて、またよろしくお願いします、と挨拶して気持ち良く別れました。
それから顔を合わせるような仕事はありませんでしたが、その後、私がフリーになって最初にいただいたレコード会社の仕事はポリドール、テレサのアルバム中何曲かの編曲でした。
そして、彼女がトーラスに移籍した時、アルバム曲の作詞のオファーがありました。
数曲書いた中の1曲、三木たかしさん作曲の「旅人」がアルバムタイトル曲となり、その他の曲はアルバム中に入りました。
その次に三木たかしさんと組んだ作詞家は荒木とよひささんで「愛人」は大ヒットとなりました。
その荒木とよひささんが伝書鳩というフォークグループにいた時、奈良のドリームランドで、関西フォークの西岡たかしさん、伝書鳩、はねおか仁のラインナップでフォークコンサートがありました。
確かビクターのセットしたコンサートで、新幹線もタクシーも伝書鳩さんと私は一緒だったので、特に荒木さんにはとても良くしていただき、帰りは新幹線、当時はひかりの車内で、ビールで乾杯し、打ち上げで盛り上がり、すっかり意気投合して東京に帰ってきたということがありました。
その後、荒木さんは「四季の歌」の作詞、作曲が大ヒットして、以後作詞家として活躍されるようになりました。
その荒木さん、ビクターがコロンビアに対抗してアニメに力を入れ始めた頃の作品「戦国魔神ゴーショーグン」の作詞を担当された時、その作品の中に出てくる悪役のキャラクター、「ブンドル」の歌を、はねおか仁で録ろうという事になりました。
そのアルバムのディレクターは、伝書鳩のディレクターだった、そして私にとっては2人目のディレクターだった永田さんでした。
数曲あったレコーディングのスタジオには荒木さん、作詞家の金井美恵子さんも来てくれて、同窓会のようなにぎやかさの中で進められました。
take1を録ると、ガラスの向こうのミキシングルームは大盛り上がりで、荒木さんが「ブンドルのキャラにピッタリだろう」と言って、
ミキサーさんまでも巻き込んで盛り上がっていました。
その戦国魔神ゴーショーグンのテーマ曲を歌った藤井健さんは、その後私がロッテの社歌を作詞作編曲した際、歌をお願いして、それ以来、親しくさせていただき、あまりお会いすることはないけれど、年賀状での近況のやり取りはずっと続いています。
そしてこの戦国魔神ゴーショーグンはテレビ東京で放送された時から、あかのたちおさんの作編曲で、翌年、東映で映画化されて全国上映となり、主題歌が「涙の法則」歌 はねおか仁で、声優でブンドル役の塩沢兼人さんと2人で全国を舞台挨拶で回りました。
塩沢兼人さんはそれ以来、何かあると電話してきて、何かと話を聞いていました。
お互い忙しかったので、会って話すことはできなかったので、亡くなった事を知らされた時は、何ともショックで残念でした。
こうして見てみると、1つの出会いがその次の出会いをもたらし、またその出会いから新しい出会いに繋がるという事で、それを当たり前と感じるか、不思議と感じるかで、人生が大きく変わっていくなぁと感じています。
私は不思議だなぁ、と感じました。
そして今、その1つ1つの出会いに意味がある事を感じています。
例えば、テレサテンさんとの出会いは、最初に私の側からの見え方を書きましたが、ある時ふと、あの時の私が見ていた現実は逆だったかもしれないと思う事がありました。
彼女は日本では私と同時期にデビューしましたが、台湾では既に知られた歌手で、つまりキャリアは私よりずっと先輩だった訳です。
あの時私は、自分の方がエスコートしたように思っていましたが、実は逆で、デビューしたての私に話し掛けて、私の緊張を和らげてくれたのは彼女の方でははなかったか、少なくとも彼女と話した事で、本番はとてもリラックスしていい感じのオンエアになったのは確かでした。
私は、自分の見たいように現実を見ていたのではなかったか、と思うようになってきました。
そして振り返ってみると、確かに逆の方が自然な展開だと思う事がとても多い事に気がつきました。
その視座で見ると、私は本当に勘違いだらけの人生を生きてきた事が見えてきて、自分が思っていたのとは逆に、とても大切にされ、生かされてきていた事が分かってきました。
テレサさん、出会ってくれて本当にありがとう。
塩沢君、もっと聞いてあげる事ができなくて本当にごめん。
こうして後悔が出てきた後は決して苦しくはなく、相手への感謝が湧いてきて、むしろ心のモヤモヤが晴れていく、リセットされていく、そんな感じがしています。
本来の自分に戻っていく感覚なのです。
まだまだ出会いは終わっていない、そう思う出会いのときにまた再び出かけて行きたいと思います。
次回もよろしくお願いいたします。

羽岡仁

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