ロマンの旅

2022年冒頭から、昔を振り返る作業をして、図らずも過去50年の、あんな事、こんな事を書き出してきて、皆さんにもお付き合いをいただいてきました。
こうして振り返って見てみると、今まで、生きてきた道すがらには、思わぬ発見や気づきが、あちこちに転がっていました。
また、ここに書き出した一回分の中には、その回の登場人物の少なくとも3倍以上、時には10倍、それ以上もの人々のお顔が浮かび、あらためて何と多くの人々に出会えた人生だったのかと、驚いたりしています。
そして今思えば、その出会いの一つ一つが、私の人生そのものであった気がしています。
さらに言うならば、その出会いはどの時点を取り出しても、この出会いがなければ次の出会いはなかった、というように、途切れる事なく連綿と繋がっていて、私には、奇跡の連続に思えてなりません。
こうして見ると、間違いなく、後になってみれば、そこには全く偶然はなく、私の人生は、全て必然の出会いが連なって作られていた、というのが正直な実感です。
そして、それは、どなたの人生も例外なく同じで、だからこそ全ての方の人生が、大切な、かけがえのない人生だと感じています。
このように、改めて出会いの不思議を思う時、そこにはちっぽけな自分ごときがどうあがいても、自分の能力や人脈といったレベルを遥かに超えた、大いなる力がはたらいていたとしか思えないストーリーが連なっていました。
つくづく、出会いは人には作れない、と深い感慨が沸いてきます。
その一つ一つの出会いに生かされて、今の私がある。
私は自ら独力で生きてきたのではなく、すべて他に生かされてきたという、認めざるを得ない事実。
その実感をいただいた事は、何ものにも代え難い宝物として、私の魂に刻まれていくことと思います。
当然の事ながら、50年前の私には今の私は見えていませんでした。
一生懸命人生の正(プラス)を求めて生きているのに、面と向かう現実は、圧倒的な負(マイナス)の連続でした。
そして、それは今も何ら変わりありません。
老いていくことも加わって、むしろある意味では、マイナスは厳しさを増すばかりと言えるかもしれません。
しかし、私の人生に訪れた決定的な出会いは、負の意味を根底から覆してしまいました。
そしてその出会いは、たとえ逃げ出したくなるほどの負であったとしても、その中には大切な意味が託されていて、それを体験しなければ発見できない、あるいは気づくことができない真実が秘められている事を教えてくれました。
思えば、家庭を持ち、子供にも恵まれ、30才を前にしてこれからという時、事務所の解散という事態を突きつけられ、レコード会社から他の事務所を紹介され、そこが当時最大手の事務所であったこともあって、私は混乱し、一時、迷いに迷いましたが、気を取り直した時に浮かんだのが「私は何のために生まれてきたのか」という言葉でした。
その言葉、「人生の目的」をまっすぐに探し求めようと決心して、制作現場の中で、一から作編曲と作詞を、無我夢中で、失敗しまくりながら、仕事をしていく中で勉強し、気がつけばピアノを弾き、オーケストラのスコアを書くようになっていた、という体験。
それからは1日24時間では足りないような生活が続いて、あっという間に40年の歳月が流れて行きました。
その中でのささやかな真実の発見と気づきによって、小さな自分革命を起こし続けてきて、ふと気がついたら、40年前には思いつきもしなかった解決の道を見つけることができた、という、私にとっては奇跡のような経験もさせてもらいました。
それは、他人が見れば、言う程のこともないような、呆れられるような些細な出来事ではあっても、私にとっては、「私はこれが知りたくて生まれてきたんだ、ありがとうございます」と、思わず手を合わせたくなるようなことの一つ一つでした。
仕事としては、どんどん読み人知らずの歌や音楽に近づいてきていますが、たとえそうだとしても、そしてまた、その時限りの、謂わば「使い捨て」になっていってる曲だとしても、その一つ一つの仕事に、私自身どれほど育てていただいてきたか、計り知れません。
私は、「人生の仕事」を目指してきたことで、自分の名前を大きくして、社会的な見返りを得る事からは、むしろ遠ざかる方向に、自ら進んで歩んできたのかもしれません。
そしてその道は、芸能界とは180度反対の世界、同じテレビ、ラジオの媒体ではあっても、まるで別世界の道だったと思います。
しかしその逆に、名もなき一人として、生かされるがままの自由を得ることができました。
そして、私の中の、建前でも本音でもない、本心と出合う道へと歩みを進めてくる事ができたように思います。
さらに、たとえ私を全く知らない人でも、私の作った歌や音楽を聴いてくれた人の本心が、共振を起こしてくれる事に、またそのときと出会える事に、限りない歓びをいただく体験をさせてもらいました。
それは、どんなに大きな賞賛よりも、どんなに多くの報酬よりも、今の私にとっては財産です。
人々の中に絶対に存在する、透明な本心の共振、共鳴が起きることこそ、私の希望であり、さらには私の根元的な願いの具現に向かう一歩、一歩に他ならないからです。
言いかえれば、10年前のような猶予感覚は、いかに怠け者の私でも、持ちきれなくなってきた、という事ではないかと思います。
なので、私は、次の挑戦に向けて、動き始めます。
今、私の中で、一方の実感は、アルバム「For you 」の中に収めた「旅人・荒野へ」であり、
もう一方の実感は、心の中心にあって、時を経るにつれ、限りなく深まり、広がってゆく「帰郷」です。
それは、飽くなき挑戦と、そこから得られる、揺るぎない自他への信頼、そこから広がる絶対的な世界信頼へと繋がる感覚です。
今日からまた私は、宇宙の妙なる調べを求めて、人々の本心の共振、共鳴を求めて、新たなロマンの旅を始めようと思っています。
歳を経たことの幸せとは、社会的ヒエラルキーの中に立たされ、比較競争に晒される窮屈さから解放され、無限の自由を味わえることだった!
そう感じています。
なので、またどこかで、新たな曲という形で、是非ともお会いしたいと願っております。
今後とも、
何卒よろしく、お願い申し上げます。

羽岡仁

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