台風の町で

今朝の空は台風の雨雲がちぎれては速く流れて、そのもっと上空からゴーゴーと唸りのような風の音が聞こえていました。
昔の私であれば、灰色の雲に押さえつけられ、風の唸りに脅され、時折ざーと顔に打ちつける雨に気持ちを砕かれて、歩くのを止めて、そそくさと引き返す場面でしたが、今日の私には、唸りを上げて吹く風が、澱んだ空気を吹き飛ばし、流れる雲から放たれる雨が汚れた地を洗い清め、明らかに、今日から始まる新しい時代を告げているように感じられました。
何故か、町も人も他人事ではないと感じながら歩いていたら、知らないおじさんに連れられ、散歩中の犬が私の前で急に中腰になり、大きい方をし始めました。
その時、おじさんが笑いながら「いゃ~、こんなところでしちゃって、車が来たらどうすんの、ほんとに、ねぇ……」と私に話しかけてきました。
私は咄嗟におじさんに笑い返して、「我慢できなかったんだよね~」と犬に言っておじさんと笑い合い、その場を後にしました。
また、もうゴールの我が家に近づいて来た狭い歩道に、風で倒れたのであろう自転車が2台、重なるように倒れていて、向こうから歩いてきた人が歩きにくそうにこちらに来ました。
それを待っていた私も、倒れた自転車に塞がれた狭い歩道を、一歩一歩、つまづいて転ばないように注意しながらその自転車の向こうに出て、再度歩き始めました。
その時、ふと心の中から「それでいいのか?」という声が聞こえてきました。
その声に立ち止まり、あっ、自転車だ、と思って引き返し、2台の自転車を起こして元に戻しました。
すると手は黒く汚れ、少し油の臭いがしました。
それでも、不思議にちっとも損をした気持ちになりませんでした。
そこで始めてハッとしました。
何かが違ってきている。
以前であれば、知らないおじさんが声をかけてきたら、せいぜい頷く程度で、言葉を返して笑い合う事なんてあり得なかったし、もっと前だったら無視していたところでしょう。
通りがかりに、倒れている他人の自転車を、手を油で汚してまで起こして元に戻すなんて事は私には考えられなかった。
アッ!新しい私になったんだ!
と思いました。
少しずつ変わってきている間に、あのおじさんも、倒れた自転車も、いつのまにか他人事じゃなくなっていたんだ!
と、思わずフッと笑いが出てしまいました。
ところで、今月の28日にAppleMusic、Spotifyなどから、世界配信が開始される私の2nd アルバム「向こう岸から」(羽丘じん名義)、1975年に発売されたこのアルバムは、当時は意識していませんでしたが、今聴いてみると、ちょっと気恥ずかしいほど、素直な心の声が収録されています。
迷いながらも、ぶつかりながらも、必死で道を探し求めている素(す)の青年の心が、そのまま歌われています。
この歌たちが、まさか2022年、世界に配信される事になろうとは、夢にも思っていませんでした。
アルバムの中の私は、今でもそうですが、もっと拙く、もっと下手くそで、ツッコミどころ満載の歌になっていますが、是非聴いてみていただければと、切にお願いいたします。
そして、新しくなった私も、もっともっと聴いていただいて、喜んでいただけるように、一生懸命頑張ります!
何卒よろしく、お願い申し上げます。

羽岡仁

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